経産省、産業構造ビジョンを公表‎! はTPP検討用資料、故に内容充実!

一年前とはなるけれど、「経産省、産業構造ビジョンを公表‎!」 といったタイトルで2010年6月6日の日経朝刊に掲載されてました。一年経った今だから分かるけど、これはどう見ても明らかに TPP政策立案に必要な基礎資料。

 

だからこそなのか、資料としての完成度も秀逸!この資料構成でよく見てほしいのは、グラフ。資料は意図を絞って作るべきことを改めて気づかせてくれる、そんな資料の典型例。まぁ、典型例だからこそ、説明もし易いのだけれど。

 

例えば、他国と比較する際、ある時期を100として指数化しているのか、それとも実数で比較しているのかは、そのページで伝えたい趣旨によって変えられている。ある資料では増減率に注目して比較するけれど、絶対額には触れないようにする工夫が随所にある。そういう意味で無知な大衆を目論み通りに導くための資料。読み進めれば分かるけど、行間ににじむのはTPP、FTA、EPAといった自由貿易協定の促進です。一番の読者は国民にあらず、たぶん農林水産省かも知れないけど...。


このビジョンを検討するにあたって作られた、経済産業省による日本の産業を巡る現状と課題には多くのデータが引用されている。この資料は、統計を上手に纏め、一定の見解を主張する優良資料の典型例とも言えるので、これからプレゼン資料等を作る人にとって大変良い教材とも言える。見栄えはいまひとつだけどストーリーや資料の見せ方は秀逸なのですよ。しかしながら、結論部分がいただけない。リンクで見ればわかるけれど、P.41以降とそれまでのストーリーは飛躍しすぎなのです。

この資料では、政策としてのターゲティングポリシー、続いて、日本の産業競争力として事業コスト(法人税)が採り上げられています。諸外国と比べて高いので日本減税を求める世論を受けてページを割いたのだと思う。

 

けれど、日本という地域を減税(安売り)する必然性はない。例えば、欧州は域内経済圏だから単純に比較する対象ではない。また、途上国は外資招致の観点から減税に踏み切った背景もあり、これも比較対象外。中国にいたっては重税の国だから比較対象にならないだけでなく、国民の人口規模の違いの点でも比較しても意味がない、とも言いたくなる資料が多い。

 

更に補足すると、中国の経済成長に注目することは良いことだけど、実態は脆弱な産業基盤であることを理解している人がどれだけいるのだろうか?同国の外貨獲得の2/3はいわゆる外資との合弁企業が稼いでいるもので、中国経済固有の競争力なのかといえば実は疑問符がつく。実力ではなく、先進国の投資によるジョイントベンチャーの成長に関する持ち分を得ていると理解すれば良い。


ともあれ、この資料は秀逸。

でも、当時公表された産業ビジョンを真に受けるのではなく、一連のデータによって、こういう仮説を持った経産省を活用するにはどうしたらよいかを考える程度で良いのではないかと思う。経済の前線を担う企業に対する営業支援を期待するのが一番。もちろん、主従でいえばあなたが主、経産省は従です。この程度での期待なら、結果がうまくゆけば経産省側も「省の功績」として主張できるし、関係者一同ハッピー。

 

この資料は当時は経済産業省独自の資料調査であるかのように理解されたけど、今となって漸く真意に気づかされる。要はTPP用の資料。けれど、資料としての充実度が群を抜いているので、マクロ観が欲しいときには是非一度見てほしい資料のひとつ。今でも時々探しては見返す資料のひとつ。

 

良い資料は、内容を更新さえすれば、物語としての秀逸さは今も健在。この資料も同様だと思う。

 

とはいえ、一番気になるのは日米経済協調対話における使われ方。これは名前こそ「年次改革要望書」や「日米構造改革協議」から変わっているけど、中身は同じ。アメリカ国益に沿うよう、日本国内を改革するよう日本に突きつける内容。日本も同様の改善要望を出しているけれど、日本の要望は一度是非確認いただきたい。愕然とする。日米双方の要求を相対的に比較すれば天地の差。誰だ?こんな仕組みを考えたのは?

 

ここまで来たら見てもらいましょう!アメリカ大使館に掲載されている日米経済協調対話の訳文とやらを

 

うーむ、如何なものかと思う。やっぱり加盟には大反対。