2021年のゴールデンウィーク、如何ですか?
家にじっと篭ってもっぱら読書なので、今回は書評です。
日本経済新聞の朝刊でシリーズ記事を新書化したもので、以下三点を纏めた新書です。
- 日本の物価が安いことは国民生活にとって良くない
- 物価が下がると、給与所得に下げ圧力がかかる
- 日本は生産性をあげねばならない
「1,400万円は低所得」は日米で前提違うのでご注意
本の表表紙に「年収1,400万円は低所得の真実」とありますが、各種保険料は老師折半であるか否かとか、日本とは制度が違う米国なので1400万円でも低所得。ということで、この帯の謳い文句は鵜呑みにするのは間違いです。
でも、その制度差異を考慮しても、物価や給与所得の傾向を見ると、日本は下落、米国は上昇、他のアジア諸国は上昇中ということを考えると危機意識を持たねばいけません。
日本人や日本の不動産が安くなったことで、海外投資家が購入を開始。
その結果、日本の不動産価格が上昇、店舗は観光客向けの価格で投資回収する様子ですが、不動産のオーナーは海外投資家。国内需要への循環投資や消費がないので地元住民は嘆くという趣旨も併記されています。
内外価格差の大きかったバブル期とは逆転、日本国内価格が主要国で相対的に安くなり続けていいることへ問い掛ける一冊です。
訪日インバウンド需要激増の最大の理由は
訪日観光客によるインバウンド需要が爆発した2010年代。
この理由は、日本の観光資産の魅力も理由と思うけど「日本が安い」から。
結論から言うと以下三点。
- 日本を除くASEAN、欧米主要国は賃金所得と物価は上昇を続けていた。
- 良質なサービスを激安で販売する日本、激安を支える労働者、激安を教授する海外投資家と海外観光客、という構図で良いのか?
- 日本の物価がデフレ傾向から抜けないのは賃金所得が減少するから。
日本国内の価格が安いことは良いことなのか?
はっきり言えば悪い。良いことが無い。
所得が安くとも物価が安ければ良いと言う人もいますが、成立している理由は低賃金を受け入れている人がいるから成立するだけです。
自分の生きている期間に限定せず、30年後まで考えると如何でしょう?
例を挙げたら中国に狙われているアニメ業界。
その他、外食業界、先端IT業界などが典型例です。
ロボットなどで生産性を高めてゆけば、別のストーリーが生まれますが「生産性」が上がらないと、企業利益が増えず、給与所得も増えません。
給与所得の安い国に対して、海外からキレッキレの優秀な人材が来るわけがないので、将来の技術革新力や経済成長力にも影響を及ぼすはずです。
企業収支
売上高 +1,000
費用(*) - 400
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限界利益 + 600 ( 60% )
--------------------------
労働所得 - 400
資本所得 + 200
(*)原材料・修繕費・設備費など外部調達費用
日本円の為替が安すぎる?
この本の検証不足の点は、ディズニーリゾートの1日入場券の価格を基準にして日米物価を比較している章。
- ディズニーリゾートのコンテンツの規模が違うと思うのでチケット価格だけを比較するのでは説得力不足。
- こうしたコンテンツや特典など支払う対価に対する詳しい分析が伴っていないのはミスリード。だって、2倍も違う(笑。
次に、2倍も違うチケット価格の謎を解くために、為替水準が円安ではないかという視点でも計算されていましたが、現在110円の為替を80円まで円高にするには、金融引き締め、金利上昇が必要になる。つまり、為替レートで説明がつく範囲を超えてしまっているということでした。
自然体にゆっくりと円高になるなら良いけれど、積極的に短期的に円高誘導を図るのは、自殺行為に等しいので現実的ではない。
OECD加盟主要国の賃金水準
OECD公式サイトのグラフによると日本は賃金所得が安い。
しかも平均値より下位。
日本円を米ドルへ変える際は、購買力平価に基づいたもので、現実の為替レートよりも円高で評価しているのに安いということ。働くなら日本ではなく、米国、イスラエル、ポーランドの方が高い処遇を得られるということです。
日本で頑張っても平均値以下。これでいいのか??
日本の物価は今も下落するが他国は上昇中
2010年以降、他国の物価水準を高く感じることが顕著になったと思っていたところへ、この記事が出たことで「やっぱりそうか…」と思い購入した次第です。
旅行先で気になった価格差は以下2点くらいですが、ASEAN域内でもお店を選べば、大衆価格もゴージャス価格も選べます。
あまり気にしていませんが、年を追うごとに海外現地価格が上昇していることは感じています。
シドニー
観光地とはいえ、ハンバーガーが25豪ドル。日本円で2,000円強。
日本マクドナルド(バリューランチ600円)と比べてはいけないので、佐世保バーガーと比べても1,000円とか1,500円。日本の外食は安い、利益率が低い、労働分配率が低いと思った。
シンガポール
ユニバーサルスタジオシンガポールの一日入場券は90シンガポールドル程度。
東京ディズニーランドとほぼ同じ価格帯ですが、スペースが違うんですよ。
東京の方が広いのに価格は同じレベルなので東京の安さを感じます。
シンガポールの土地代が異常に高いとも言えますが、日本の土地が安い?
"安いニッポン"は外食に限らない
北海道のニセコでは不動産を海外、特に不動産バブルですでに加熱している中国や韓国の富裕層が買い漁る場面が多いとのこと。実際にそんな記事や報道を目にしたことはありますが、ニセコの他にも京都市も問題に直面しています。
国内外富裕層、京都の不動産に熱視線 「割安」、コロナでも投資マネー流入
別荘目当てで京都市内の不動産が買われることで、住民税を払わない人が不動産のオーナーになることが大問題になりつつあります。
別荘なので年間に一時期しか居住しないわけです。
当然、住民票の移転もせず、海外投資家なら訪日時に利用する或いは転売利益を得るといった次第で、住民税を払わないけど、自治体が用意するインフラを使用するということが問題になりつつあります。
総括:課題は生産性向上
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この本で、一番大切なことは、本の最終章に専門家の意見としてある通り、労働生産性の向上が課題です。
日本人の給与所得を上げなければいけない。
また、そのためには労働生産性を上げなければいけない。
大失敗の事例は韓国で起こっていますからね。
労働生産性を上げずに、最低賃金の引き上げた結果、事業者による雇用が減少。
その結果、個人事業主が増えて、フライドチキン屋が増えた、屋台が増えた、となっています。
自分自身が生き残ることをした上で、幸せを感じる日本国民が増えるように仕事の仕方や事業を起こすなど、色々考えなければいけないと感じさせる一冊でした。